しわ寄せ
言論封殺のもう一つの代表例は言葉の語感でもって非難することです。私なぞ「言葉がきつすぎる」とか「先生、和が乱れる」とか、そんなくだらないことを言われてきました。ことの本質や内容ではなく、全く本質的でないところで「言葉を整えなさい」と言われるのです。もうめちゃくちゃでしょう。私たちはどこに焦点を当てて勉強しているのでしょうか。一番かわいそうなのは授業料を払っている学生さんですよ。
日本の場合は言論封殺よりも、さらに深刻な状況にあると言えるかもしれません。なぜかというと、日本の先生方が病的に行っている「休講」、すなわち「今日は授業ありません」ということのためですね。私はアメリカでの生活が長いですが、大学に授業を受けに行って先生が休んだことは一度もありません。授業料をもらっている先生が、授業料を払った学生の前に出てこないなんてことはあり得ません。アメリカでそれが頻繁に起こったら、学生が怒ってその先生の所に行き「金返せ」とか「詐欺だ」とか言いますよ。
しかし日本の先生方は休講を平気でやるのです。「学会がある」と言って学会に行ってしまうわけです。学会って、まだ学期の途中に学会を行う方も問題ですが、学びに来ている学生をほったらかして、学会での発表とコネづくりをやるわけです。ですから、日本で学ぶ学生の皆さんに、「休講」にはきちんと声をあげなさい、と言いたい。「授業がない」と喜んでいる場合ではありません。
休講をめぐっては「隠れ休講」というのもあります。最悪です。これは先生が、学生課とか教務課を通さずに、学生たちにメールや口頭で「来週の月曜日は休講です」などと伝える方法です。そうすると大学事務局はそのことを知りませんから、表向きは授業をしたことになります。こんなことがまかり通っております。
安月給
もちろん大学には真面目な先生方もたくさんいらっしゃいますから、休講大好き先生はそのごく一部なのかも知れません。しかし、休講がまかり通ってしまう原因もあります。それは疲れです。先生方は日々の業務で疲れ果てています。体に鞭を打って働いても、給料が上がるわけでもなし。そんな状態が続いております。
日本の大学の先生の給料ですが、金額だけで見れば安くはありません。ただ、高くもありません。普通の生活が成り立つ程度です。しかし実際に働いている時間で見ると、超低賃金で働いております。私の妹が言っていましたけれども「お兄ちゃん、日本で大学の先生になるのはやめてね!」「何で?」「知らないの?日本の教授と乞食は日本で一番楽なお仕事だそうよ」、とのこと。「乞食と比べられているのか」と言ったら「そうよ!」と言っていました。一日に、90分授業を2、3するだけで良いのでしょう、などと言われますが、その90分のためにものすごい時間をかけて準備しております。
教授になると状況は少し違ってくるかもしれませんが、教授は全体の数からすると一握りです。それ以外の先生方は信じられないほどの時間給で働いているのが現実です。非常勤講師になると、その窮状はさらにひどい。1回の授業は、私の経験や知人の話を集めると、平均して5、6千円から1万ほどです。若く、コネのない非常勤は、授業準備も、実際の授業も、自分の生活も研究も、貯金を削りながら、そしてバイトをしながら行っているのです。それでも、報われない場合が多いのです。
学問に敬意を払ってきたこの日本で、なぜこのような状況が生じているのでしょうか。
西鋭夫のフーヴァーレポート
言論の自由(2019年6月下旬号)-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。