言論の自由
米国では今、「言論の自由」をめぐる大きな論争が繰り広げられております。トランプ大統領は2019年3月、大学の「言論の自由」を守るための「大統領令」に署名しました。それはいわば、言論の自由を守らなければ、連邦政府からの研究予算を削る、という脅しでもありました。
私はトランプ大統領の大統領令をみて、内心ホッとしましたし、とても嬉しかったです。皆さん、アメリカの大学には様々な人種的背景を持った人たちが大勢いらっしゃいます。経済的なバックグラウンドも実に多様です。ところがこの10年ほどの間に、特にオバマ政権の8年間で、大学がどっと「左寄り」になりました。マルクス主義を信奉しているような学生たちがキャンパス内にあふれたのです。
左寄りだろうが、右寄りだろうが、学問の自由という立場からすれば問題ありません。しかし、保守系の研究者や学生たちは肩身の狭い思いをしております。自由にものが言えないのです。右寄りの発言をすると「こいつはなんだ」というような風潮ができあがっているのです。一部の大学だけではありません。全米の大学で見られる現象です。おそらく8割ぐらいの大学が左寄りになりました。右寄り、あるいはマルクス主義的でない議論をしようものなら非難される、敵視されるような状況なのです。
バークレーでの騒動
実際にあった例についてお話ししましょう。カリフォルニアにカリフォルニア大学バークレー校という名門中の名門校があります。スタンフォードのサンフランシスコ湾を隔てた向こう側にあるのですが、そこでは保守的な論客を呼んでの講演会が中止になりました。保守といっても、少しだけ右寄りの論客で、極右思想の持ち主ではございません。
なぜ中止になったのか。バークレー校の学生たちが、いわゆる暴力でもって会場壊しを行い、講演会開催を阻止したからです。すさまじい状況でした。暴力でもって言論の自由を封じるということが、アメリカの名門校で起きているのです。これは氷山の一角ですよ。表沙汰になっていないだけで、似たようなことがアメリカの大学のあちこちで起きております。
暴力による封殺
保守系の学生も大学の中には大勢おりますよ。彼らは保守系論客の話を聞きたいでしょう。左寄りの学生であっても、保守系の人の話を聞きたいと思う人は多いと思います。ところが1960年代の学生運動のような状況が生まれておりまして、会場にはバリケードが張られ、封鎖されているのです。聞かせてもらえないのです。
議論に対しては議論で対抗しなければいけません。今起きているのは一種の言論テロです。これを許すと、アメリカの大学、アメリカの言論社会が崩壊します。
先のトランプ大統領による大統領令は以上のような背景のもとで出されました。大学のあり方について、大学の総長や学長、理事会らに対して「本当にそれでいいのか」と言い放ったのです。大学は右派だろうが、左派だろうが、学問をするところでしょう。それができないのであれば研究費を削りますよ、という話です。私はこのスタンスに大賛成です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
言論の自由(2019年6月下旬号)-1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。