青空教室
私は子どもの頃から今までずっと学校におります。企業で働いたこともありますし、アラスカの缶詰工場でも働いたことがありますが、それは一時的なことで、それ以外は学校におりました。
そんな私の長い学校生活の中で、一番自由だったなと思うのは小学校の時です。戦争に負けた後の教育です。戦前から日本でずっと使われてきた日本の教科書を、アメリカはことごとく否定しました。「軍国主義なんぞもってのほか」「天照大御神(あまてらすおおみかみ)なんかいないし、いらない」「二宮尊徳は何で偉いのだ。そんなものは幻想だ」などと言って、教科書は使われなくなりました。新たな教科書を作るにも紙不足で作れない。そもそもアメリカが望むような教科書を書ける人も少ない。それで2、3年ほどの間、教科書がなかったのです。
素晴らしい状況でした。私たちは毎日学校に行きました。当時は土曜日も学校です。教科書がないので、先生がお話をするわけです。教室もありませんでしたから、青空の下で話を聞くわけです。人生や戦争についての話をじっと聞いておりました。昼間はバーッと遊びました。学校が終わった後は宿題なんてありませんから遊びました。
学歴社会の末路
さて、そんな教育を受けてきた私たちはバカになったのですか。自由奔放に子どもを育てて、子どもがバカになるのですか。なりません。皆さん、学力に対する幻想を抱いているのです。偏差値なんぞ何の役に立つのでしょう。
親のエゴで東大や京大に、あるいは慶応や早稲田に入らなければいけないのですか。卒業したら官僚だったり、有名企業で働くのが偉いのですか。定年がきたら一斉に退職です。定年退職した人は皆さん同じです。
学歴社会の中で、「できる」と思われている人たちが立派な大人になって、何年が経ちましたか。私たちはリーダーといえば政治家を思い出しますが、バブルがはじけてすでに30年が経ちます。何か良くなりましたか。感動がありましたか。「失われた10年」ではありません。正確には「失われた30年」です。
現状維持
どこかのメディアが「今は景気が良い」と言っておりましたが、肌感覚ではにわかに信じることが出来ません。私はドクター・スーパーです。スーパーで買い物をするのが大好きなのです。最初に見るのはもちろんバターです。その次にいろんなものを見ますが、日本での買い物は本当に残念です。バターの量はどんどんと小さくなるのに、値段は高くなる一方です。買い物客の様子を見ていると、いつも値段を気にしています。
政治家の偉い先生はスーパーで買い物をしたことがあるのでしょうか。末端の暮らしを見ずに、好き勝手、皆さんが喜びそうなことばかり言っている。しかしその実情は「現状維持」です。何も変わって欲しくないのです。この30年間を見ればわかるでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年3月下旬号「揺らぐ日本の人材育成」-2
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。