フクシマ

by 西 鋭夫 March 30th, 2023

解決し難い問題

私は長らく福島の問題を取り上げ、フーヴァー研究所から幾つかの論文を発表してきましたが、事故後からこれまでの経過を見て思うことは「何も変わっていない」ということです。大きな変化や改善が見られないことが、福島の問題なのです。

8年が経ち分かってきたことは、私たち人間そして日本の科学者たちは、あの問題を「解決できない」ということです。すなわち、原発が一度大事故を起こすと、自動車のブレーキを直すようには直せないことが分かったのです。

廃炉

選択肢は廃炉しかありません。しかし廃炉自体も難しい状態が続いております。ロボットでさえ熱と放射線で壊れてしまうのです。中の状況はいまだに明らかになっておりません。

その間、核廃棄物を冷やし続けないといけませんので、大量の水がどんどんと使われております。その水も捨てることが出来ず、巨大なタンクに収められております。そのタンクの数も凄まじい状態ですが、今後もますます増え続けるでしょう。

そんな状況ですから、福島原発の事故処理はまだまだ終わらぬ状況なのです。先が見えません。事故が収束したかのような宣言が出ておりますが、事故は全く収束しておりません。

 

除染

福島の復興のためにと、膨大なお金が費やされております。例えば、2016年末までには「除染」だけで、2兆6,250億円もの国費が投入されております。この除染作業を経て、政府は2017年春、帰宅困難地域を除く地域への避難指示を解除しました。

除染作業が完了したかのような印象を与えておりますが、放射能についてはその汚染の性質上、除染完了は基本的にはあり得ません。土は砂埃となってどこへでも移動しますよね。汚染された土も同じです。山や森の中へと移動しますし、川辺や湖沼に入っていった砂埃もあるでしょう。それらが土壌を汚染し、水を汚染するのです。その土壌や水に育まれた動植物も汚染されてしまいます。つまり、ある場所にあった土に高い放射線量が検出されたからといって、その場にあった土を取り替えるだけでは除染にならないのです。

取り除かれた土の行き場もありません。どこに持って行ってどのように処理するのでしょう。福島に行かれた方は分かると思いますが、除染土は今、白い袋に入れられて福島原発の周辺地域に山積みになっております。この後どこにこの土を持っていくのか。受け入れを表明する自治体はあるのでしょうか。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年3月号「原発密約とパリ協定」-1

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。