技術の継承

by 西 鋭夫 February 23rd, 2023

日本 vs. 欧米

話は100年前にさかのぼります。当時はアメリカもイギリスも、ノルウェーやデンマーク、スウェーデンと同じように、大西洋にてクジラを獲っておりました。それは乱獲とでも言えるような状況でした。その結果、クジラがいなくなってしまったのです。困り果てた欧米諸国は、今度は太平洋に目をつけ、どんどんと進出していきました。そしてそこでもクジラの乱獲を行いました。

彼らの狙いはクジラの油です。それをあらゆる機械の動力として、またランプの燃料などとして使っておりました。油だけ絞って、肉は捨てておりました。

一方、日本人はクジラの乱獲など行なっておりません。またクジラを一頭捕まえたら、それを余すところなく全て使いました。油も肉ももちろんですが、骨もヒゲも全て使い切って、最後にはクジラに対して感謝するのです。これが日本の捕鯨です。日本と欧米とでは、捕鯨に対する感覚や姿勢が全く異なるのです。

 

捕鯨技術

日本の捕鯨技術は世界最先端であり、日本だけでなく、世界を救う技術です。1つの産業が潰れると、復旧させるには相当な労力がかかります。資金だけの問題ではありません。製造や加工、流通、販売網、人材など様々な点に関連しております。それぞれはまた独立して存在しているのではなく「伝統」や「文化」として、存続しているのです。

伊勢神宮が20年単位で行う式年遷宮がありますね。あの儀式があるからこそ、宮大工の技術が数千年続いているわけです。何代にもわたっていきます。捕鯨技術も似ています。捕鯨をいったんやめてしまうと、その技術は永遠に失われるでしょう。遺産としては残りますが、生きた文化ではなくなります。

 

タンパク源

捕鯨技術は人類の生存にとっても不可欠です。今は何不自由なく、当たり前に食糧がある時代だと考えられていますが、それは一部の先進国だけの話です。その先進国でさえ、現在の途上国が豊かになり、人口が爆発的に増えて行った場合、どうなるかわかりません。

食糧危機はすでに起きていると言っても過言ではないでしょう。そんな時に注目されるのがクジラのタンパク源です。捕鯨技術を持っているか否かは、国の食糧安全保障政策にとって重大な意味を持つでしょう。人々の生存にとって不可欠なのです。

危機を目の前にして、クジラだけ獲ってはいけません、というのは理想論です。今、クジラを獲ることが出来る国はほとんどありません。日本とあと数カ国でしょう。海と接していない国々が多数決でもって「捕鯨はダメだ」と言っているのです。とてもおかしな話だと思います。

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年2月上旬号「クジラと海洋資源争奪戦」-3

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。