米国のロジック
解任となったマティス国防長官ですが、トランプ大統領との意見の違いは同盟国に対する考え方にあったようです。トランプ大統領は「米国の同盟国はその役割を十分に果たしてない」と思っております。「若い米国人の命をかけて70年間も守ってあげているのに、あなたたちは何もしていない」とでも言いたいのでしょう。
私から見ると「70年も日本を食い物にしやがったな」と思っておりますし、基地がこんなにあって、東京の上空を自由に飛べないのはおかしい、と思います。しかしアメリカから見れば日本はアメリカ帝国の極東の砦なのです。ここは最前線です。いつ戦争が起きてもおかしくない地域だからこそ、「アメリカ軍が来て、守ってあげているのだよ」と言いたいのです。ですから次なる要求は「用心棒代として、もっともっとお金を出しなさい」となるでしょう。
マティスさんはそうは考えていませんでした。むしろ、日本ともっとお話をしましょう。そして、きちんと情勢を説明し、日本と米国の役割を明確にしていきましょうと、そんな発想だったと思います。
指揮権
しかし日米交渉の裏舞台では、目に見える形での話し合いとは別のことが起きております。当然のことながら、アメリカに対してどしどしとモノを言える国はありません。役割を平等に、公正に分担しましょう、などと提案できる同盟国はありません。すべては米国が決めるのです。
例えば、戦争が起きた時の統帥権について考えましょう。これは、いざ戦争になった時、日本の自衛隊の指揮権を誰が執るのか、という話です。ほとんど知られてはおりませんが、日本では総理大臣ではなく、アメリカが指揮権を持ちます。日本の自衛隊なのに、日本の総理大臣ではないのです。
ある会合で私は、政府のお偉いさんに戦時における自衛隊の役割について聞いたことがありますが、その方は米国防省の許可なくして動かせません、というようなことをおっしゃっていました。「北朝鮮が危ない」、「中国が危ない」と言いながら、それが現実となった時に、日本の判断で動かせないのです。これが今の日本の現状です。日本と米国の力の差なのです。
対米外交の失態
そんな米国に対して、安倍総理は大きな過ちを犯しました。それは大統領選の時に遡ります。私は何度もトランプさんが勝つと指摘しておりましたが、日本のメディアも、そしておそらく総理の取り巻きや外務省も含め、ヒラリー陣営が勝つと考えていたのでしょう。
安倍さんが米国を訪れたとき、ヒラリーさんとは会談し、握手もしっかりと交わしました。一方、共和党候補であったトランプさんには会わずに、日本に帰ってきてしまいました。
それを忘れるトランプさんではないでしょう。日本を含む同盟国に対する理不尽で強引な要求は、一つには対米外交の失態から生じたものと言えるでしょう。これが外交の世界なのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年1月下旬号「日本独立への道」-4
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。