裁量という落とし穴
仕事を楽しいと思うか、苦しいと思うか。仕事に対する考え方で人生は大きく変わります。どうしてもやりたくない仕事をしていたら、身体に蕁麻疹が出る場合もあるでしょう。治すためには仕事を辞めなければならない。そんな状況に置かれた人もいるのではないでしょうか。
今、人々の働き方に大きな注目が集まっております。政府はこのほど、裁量労働制の拡大を法案化しておりますが、これが本当に実現したらどうなるのでしょうか。ますます仕事に縛られてしまうのではないか。競争を促すようで、実は競争がなくなってしまうのではないか。私はそう思います。
なぜこのような法案が政府から出てくるのか。政府といっても官僚や政治家の先生たちでしょう。彼らは本来、この領域に立ち入るべきではなく、「放っておけ」と思うのです。こんなものを作るから企業は余計に発展しない。制度に縛られるだけです。
残業代を求める社会
「残業代をきちんと払え」というより、仕事にどのように向き合うか。それを考える方が重要です。今の仕事が好きかどうか。本当にその仕事がしたいのかどうか。そうした問いかけにどう答えるかです。
私は長い間、学生をやっておりましたし、教授もやっておりましたが、当然「残業手当」なんかありません。考えてもいないです。学問の世界、一つのことを研究するのに五年、六年と続くことがあります。その間は寝る間も惜しんで研究しております。そんな時に「残業代よこせ」というのは変でしょう。
サラリーマンたちも本来は似た状況だったのだと思います。八時間働いてもまだまだ働く。九時間、十時間と、しかし残業代は請求しません。仕事がおもしろいのです。仕事に誇りを持っているのです。だからこそ終わらない仕事と格闘してきたわけです。
上司の存在
そんな働きぶりをきちんと褒めて、時にはしっかりと叱りながら、部下たちを育てる。そんな上司の存在も大きかった。今の上司は自分の部下を見ていない。
部下たちの話を聞いたり、飲みに行ったりするより、自分の時間を優先する。そんな上司が増えてきたように思います。部下の頑張りを支える人、評価する人がいない中、部下たちはストレスを抱え、上司に怒りを覚えるのでしょう。
規則や法律で労働のあり方を縛るというのは、「生きがいと仕事は別だ」と断言しているようなものです。仕事は本来、お金のためだけではありません。雁字搦めに縛られた世界では、セクハラ、パワハラ、いじめなどがさらに広まっていくと思います。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年11月上旬号「働き方改革と歴史」-1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。