農業を守る術はあるのか

by 西 鋭夫 October 18th, 2021

食糧自給率


ある統計データによると、日本の食料自給率は2016年現在39%などと言われています。このデータは農林水産省が喜びそうなデータですが、これはいくらなんでも高過ぎでしょう。実際は20%前後ではないでしょうか。

昔、列車に乗って大阪から東京に来た時、途中に通っていく日本の山々、段々畑、青々とした茶畑などに、もう見惚れておりました。1960年代から70年代の初め頃でしょうか。あの頃はおそらく、日本の労働者の半分ぐらいが農業従事者だったのではないでしょうか。

当時の日本はまさに農業国。食料自給率も今と全く違っていたでしょう。農業にも未来がありました。現在の農家の平均年齢は65歳ほどだと思いますが、当日はまだまだ若い人たちがたくさんいた。


減反政策


ところが何を錯覚したのかわかりませんが、自民党が大きく方針を変えた。アメリカから頬っぺたを殴られたのか。それが怖かったのか。「米を輸入しろ」と言われて、米を作らせないようにした。この方針転換は、票のためとも言われた。

そして、日本の優れた農民たちに「ここで米を作らなかったら保証金としてお金をあげる」と言い始めたのです。日本の農民を生活保護者にしてしまいました。これは、どこかの出版社が「西先生、本を書かなくても印税をあげます」というのと同じです。そんなことができるはずがないでしょう。

あの政策は最悪だったと思います。日本の農民たちも錯覚しました。「何もしなくたってお金がもらえる。自民党は素晴らしい。大切なパートナーだ」と、票を入れ始めました。


量ではなく質を


日本の農業に関わっている人たちの平均年齢が65歳で、おそらく70歳になっていくでしょう。この人たちが亡くなった時、日本の農業は自然消滅です。なぜか。若いお兄ちゃんやお姉ちゃんは農業に携わりません。農家で生まれた息子も娘も大都市へ出て行ってしまい、戻って来ないのです。農業に対する憧れもなければ、素晴らしいものを作るシステムも失われていくのではないでしょうか。

アメリカは今、TPPを日本政府に対してゴリゴリ推していますが、このタイミングであれば日本の農業を完全に乗っ取れるのではないか、と思っているのでしょう。質だって別に変わりはない、などと考えているのでしょう。しかし、日本の農産物の質はアメリカのものと、世界のものと全く違います。


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日本の農業を生かす術があるとしたら、それは量ではなく、質を徹底的に高めていくことではないかと思います。今後は世界各地から、たくさんの農産物が日本に入ってくると思いますが、「日本の野菜はやっぱり美味しい」と思わせるような作物をどんどんと作る。値段が少し高くとも、美味しさと安心で日本の消費者は日本の農作物を買うでしょう。海外へは高品質をウリにした安心、安全な農作物を輸出する。安さで勝負するのではなく、質を保ち続けることが日本の農業にとって大切だと思います。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年9月下旬号「アメリカの食文化支配」-6




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。