日本外交の転機
2009年に就任したオバマ大統領は、就任当時から広島訪問を望んでおりました。核兵器根絶のシンボルは広島です。だから絶対に行きたかった。
原爆についての謝罪は非常に難しい。しかし、2009年当時のオバマさんの人気は、謝罪できるだけの人気がありました。支持する人は全米で80〜90%あったかと思います。俗に言う世界のロックスターが広島を訪れ、あの戦争は残酷で、無駄な戦争だったと言う。そして、アメリカも日本も苦しみましたと指摘しながら、それでもなお原爆は使うべきではなかったと述べる。
日米関係の大きな転換点となったと思います。これが実現していれば、2010年以降の日米関係はどれだけ変わったか。しかし、2009年での広島訪問は実現することはありませんでした。なぜか。
時期尚早論
当時の外務省事務次官・薮中三十二は、オバマ大統領の広島訪問は時期尚早で、控えるべきだと電報で書きました。
今、私の目の前に、薮中さんが書いた極秘の英文電報があります。アメリカ大使館宛に書かれた英文にははっきりと、too early for Hiroshima visitと書いてあります。広島訪問は早過ぎます、ということです。原爆が落ちて65年。それでもまだ早すぎるとは、どのようなロジックなのか。
外務省の次官はとても偉い人です。当時は民主党の鳩山政権ですが、何でこんなことが彼の電報で決まってしまったのか。鳩山さんの話を聞いたのか。
鳩山外交
鳩山さんは中国べったりで、朝鮮半島情勢にも大きな関心を寄せています。そんな時、アメリカの大統領が日本に来て広島を訪問すると、日米関係が良くなってしまうのではないか。日米関係が良くなると、親中外交が出来なくなるのではないか。
オバマさんの広島行きを止めた背景には、このような発想があるのではないかと思います。これはとても貧弱で残念な発想です。国益に対する考えがない。自分の考え方や個人のイデオロギーで決めている。自身の保身や将来のこともあってのことでしょう。
最終的な決断は鳩山さんなのか、外務省なのかはわかりません。しかし、私たちは日米関係最大の転機を失った。それは非常に大きな損失です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2016年5月下旬号「オバマ大統領による広島訪問」-2
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。