From: 岡崎 匡史
研究室より
日本とナチス・ドイツ。
戦争犯罪の話題になると、日独は必ずといってよいほど比較される。
しかし、この比較の仕方には、問題がないのだろうか?
アメリカはナチス・ドイツという脅威に晒されている世界の危機に瀕して、第二次世界大戦に参戦。ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺を日本の「愚行」にかさね、日本をナチス・ドイツと同じくらい「悪者」にして、占領政策の正当性を強調しなければならなかった。
GHQ占領下の日本、「日本とドイツを再教育することができるのか」という議論がおこるほど、アメリカは日独を同一視していた。
国策標語
ナチス・ドイツを率いたアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler・1889〜1945)は世界征服の野望を抱いており、ユダヤ人を「他民族の体内に住む寄生虫」と蔑み、アーリア人種だけが「高度の人間性の創設者」であると、ゲルマン民族の優越性を喧伝した。
日本の「国策標語」では、米英を煽る。
「日の丸で 埋めよ倫敦(ロンドン) 紐育(ニューヨーク) 米英を消して明るい世界地図」
さらに、『臣民の道』では、「我が國家の理想は八紘を掩ひて宇となす肇國の精神の世界的顕現にある」と、日本は「八紘一宇」を唱え世界新秩序である「大東亜共栄圏」を確立するため、アジアの盟主になろうとした。
アメリカは日本を「異質」な「悪」と見なし過剰反応した。
世界制覇観
しかし、『臣民の道』を読んでみると、日本はソ連やドイツ、イタリアのような「世界制覇観」とは全く異なっている。
ソ聯は共産主義による世界制覇を目的とし、階級的獨裁による強権を手段としてゐる。ドイツは血と土との民族主義原理に立つて、アングローサクソンの世界支配、ドイツ壓迫(あっぱく)の現狀を打破し、民族生存權の主張に重點(じゅうてん)を置き、そのためにナチス黨の獨裁に對する國民の信賴と服従とを徹底せしめ、全體主義を採用してゐるのである。イタリアは大ローマ帝國の再現を理想とし、方法を於いてはドイツと異なるところなく、ファッショ黨の獨裁的全體主義に立脚してゐる。これ等に對し我が國は肇國以來、萬世一系の天皇の御統治の下に皇恩は萬民に洽(あまね)く、眞に一國一家の大和の中に生成発展を遂げて來たのであり、政治・經濟・文化・軍事その他百般の機構は如何に分化しても、すべては天皇に帰一し、御稜威によつて生かされ来たつたのである。
軍国主義のイデオローグのバイブルとさえ言われる『臣民の道』でさえ、日本はナチスのような「世界覇権観」は説いていない。
むしろ、ソ連、ドイツ、イタリアとは違うことを強調しているのである。しかし、アメリカはあえて過大視して強引にナチス・ドイツと同じ罪を日本に着せようとしたのである。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・アドルフ・ヒトラー『わが闘争』(角川書店、1973年)
・教学局『臣民の道』(内閣印刷局、1941年)
・森川方達『帝國ニッポン標語集』(現代書館、1995年)
・"Are We Re-educating the Germans and the Japanese?," 28 July 1946, George D. Stoddard Miscellaneous Papers, Hoover Institution Archives, Stanford University, Box 1-14.
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。