サーカスの中の鯨たち

by 西 鋭夫 June 21st, 2021

鯨ビジネス


鯨が資源と思われていた時代から、海洋生物の象徴へと大きく変わっていった転換点とは何だったのか。それはおそらく1980年代です。

1980年代といえば、私がワシントン大学にいた頃ですが、シアトルの沖には鯨がたくさんおりました。その中でも多いのが、日本で言うシャチです。白と黒で、髭が長く、美しく凶暴な鯨族の一つです。シャチは群れを組んで動きます。

このシャチを5、6匹、生け捕りにしてサーカスを覚えさせた。これが大ヒットして、莫大なお金を産みました。カリフォルニアにあるとても有名な水族館が仕掛けたビジネスでした。シャチを生きたまま捕獲することを専門にする会社も出てきました。


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捕鯨論争の始まり


ところが、サーカスで動物たちに芸を教えるのは残酷だ、という考え方が出て来ました。特に、象はかわいそうだ、という話になり、有名なサーカス団が象を野生に開放する姿がメディアで報道されたりして、大喝采を受けました。この流れで「シャチを解放せよ」との動きが出てきた。

象もそうであるように、鯨も高い知能を持っている。そんなシャチを芸のために使ったり、お金儲けをしたりするために使うのは野蛮だ。倫理的に問題だ。といった議論が出て来ました。米国人にとって、シャチや鯨はもはや芸の対象でもなく、捕獲の対象でもありませんでした。それはとても可愛い、そして高度な知能を持ったペットでした。


日本叩き


大切で可愛いペットが日本で虐殺されているという。日本人はさらにその肉を食べているという。なんて残酷なのだ。倫理的にも極めて問題だ。こんな話が1980年代後半ごろから、米国社会でも急に盛り上がって来ました。

日本が高度経済成長を実現し、米国が羨むような発展を遂げた時期と重なっておりました。日本バッシングに、捕鯨問題は油を注ぐ形で大きくなっていったわけです。

日本は戦後70年、アメリカの保護国のような形で生きてきました。食文化まで外国の指図を受けるとなると、日本人の奥底に眠っている鬱積した感情が表に現れてきます。普段は鯨に関して多くの人が無関心でいるのに、いざ問題が浮上すると、日本人のナショナリズムを刺激しかねない。欧米社会からの偏見に基づく差別に抗うためには何が必要か。冷静に考えたくとも、捕鯨の歴史を知れば知るほど、欧米諸国の傲慢さに腹が立ちます。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年5月上旬号「捕鯨外交」-7




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。