From: 岡崎 匡史
研究室より
買い物が不便になりました。
食料品を買いに行く度に、レジの袋が要るかどうか訊ねられるのは、うんざりします。しかし、お客さんに毎回聞かなければならないレジの方の気持ちを思うと、可哀相になる。
一日に何回、訊ねなければならないのか。無駄な仕事が発生する労力を誰が補ってくれるのか。レジ袋の売り上げを計算しなければならない財務の人々の労力は。しかも、レジ袋に10%の消費税までが上乗せされている。「塵も積もれば山となる」というように、膨大な金額になります。
そのうち、通信販売で商品を取り寄せるだけで、「環境コスト税」という名目で税金が課される時代がやってくるかもしれません。
菓子税則
そんなことを考えていると、無性に甘い物が食べたくなる。和菓子を食べながらお茶を一服。至福の時は、一瞬で終わる。お菓子を見たら、明治日本で導入された「菓子税」を思い出してしまった。
富国強兵を目指している明治政府にとって、お菓子は「贅沢品」。しかも、国内では西郷隆盛が政府から下野し、1877(明治10)年に「西南の役」が勃発。平定するのに膨大な戦費もかかり、政府の財政は火の車。1881(明治14)年には、松方正義により緊縮財政、インフレ抑制政策が行われる。
そして、1885(明治18)年5月8日、明治政府は「菓子税」を課けると布告する。
「菓子税則」
第1条 菓子営業者を分て左の三種とす...(中略)...
第2条 菓子営業を為さんとする者は、管庁に願出、営業鑑札を受くべし...(中略)...
第8条 菓子営業者は、左の区別に従い、営業税を納むべし...(中略)...
第11条 菓子製造人は、税造税として菓子売上金高百分の五を、左の期限に従い、納むべし...(以下略)....
製造税5%
営業税だけでなく、お菓子の売上げに5%という「製造税」まで課税した。この重税に、菓子製造業界はあわてふためく。
お菓子を生産している90%以上は、零細企業や家庭で菓子を作っている。このままでは生活が立ちゆかない。彼らは、陳情、請願を繰り返し、菓子税の撤廃運動にまで発展した。
しかし、明治政府は「菓子税」を厳格に実行してゆく。明治18年度に徴収した菓子税は約43万円。翌年は54万円ほど。
菓子税廃止運動は続くが、日清戦争が勃発し、それどころではなくなる。だが、日清戦争の勝利で清国からの賠償金を得たことで、明治日本の財政は強化された。
菓子業界は、代議士の鳩山和夫(はとやま かずお・1856〜1911・法学博士・鳩山一郎の実父)に懇願し、帝国議会での賛同者を増やしていった。
そして、ようやく1896(明治29)年に菓子税は「国税たるには不適当」とされ廃止された。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・出井弘一『カステラの道』(學藝書林、1987年)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。