イエズス会 vs. 奴隷貿易

by 岡崎匡史 April 17th, 2021

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From: 岡崎 匡史
研究室より

日本人奴隷貿易について、日本で活動していたイエズス会士たちは黙っていたのか?

彼らは、奴隷貿易により日本人のあいだでイエズス会に対する悪い印象が広まることを恐れた。日本人がキリスト教に改宗しなくなってしまうからだ。宣教師たちの目からみても、奴隷貿易が布教活動を妨げていると映った。

イエズス会は、本国に対して対策を講じるよう要請する。

イエズス会総長


イエズス会の要請に対して、ローマもすぐさま反応した。

イエズス会総長クラウディオ・アクアヴィヴァ(Claudio Acquaviva・1543〜1615)は、日本で活動している巡察師ヴァリニャーノに1590年4月15日付けで次の指令を出した。


日本においてもポルトガルにおいても、重大な罰によって禁止されているのに、如何なる名目の下にポルトガル人が日本人を捕えて国外に連れ出すことが出来るのか、という道理を、台下が御説明下されば幸いです。捕えておくことが法律上は正当であるとしても、キリストのために人々の心を捉えにかの地へ行っている者が、人間を人間の永久奴隷とし、これほど悲惨な状態におくことに賛成することは、われわれには納得できません。われわれは、むしろそのような扱いから彼らを守るべきであって、その方が教化的でありましょう。それによってキリシタンは、わが教えに仁愛や慈悲を見出して慰められるでしょうし、われらの仲介によって自由の身になった異教徒は、つまずきの原因が取り除かれて、われらの教えに惹き寄せられるでしょう。反対に、われわれがポルトガル人の要望に応じて彼らに協力したら、日本人はわれわれに不信を抱いて、われわれから離れてゆくでしょう。それは、布教にとって大きな損害になります。


イエズス会総長は、「改宗事業に著しい妨害を招く大きなつまづきとなりかねない」ので、イエズス会士が捲き込まれないようにとヴァリニャーノに命じた。

ポルトガル国王勅令


イエズス会の抗議が功を奏し、1596年にはポルトガルのインド教区は奴隷貿易を禁止。さらに、違反者には破門規定までが設けられた。

1598年になるとルイス・セルケイラ司教(Luis de Cerqueira・1552〜1641)が奴隷貿易に関する評議会を開き、破門と刑罰規定を更新し、ポルトガル国王に対して取引を禁止する勅令発布を要望した。

1605年3月、ポルトガル国王は、インディア副王に対して奴隷取引禁止の徹底を通告。ポルトガル国王は再三にわたり勅令を出し、奴隷取引に関与した者は破門され、罰せられることになった。

だが、その効果には疑問が残る。なぜなら、17世紀に入っても、日本人取引舶載の行われた記録が残っているからである。

さらに、ポルトガル領インドのゴア市民が、国王の勅令に対して反対の声を上げた。商売が成り立たないからである。「正当適法なる名目と法の許容せる事情ある時も日本人を禁ずるのは、朕の本意に非ず」と国王は態度を軟化させてしまっていた。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・岡本良知『十六世紀日歐交通史の研究』(弘文荘、1936年)
・牧英正『日本法史における人身売買の研究』(有斐閣、1961年)
・ホアン・G・ルイズデメディナ『遙かなる高麗』(近藤出版社、1988年)
・高瀬弘一訳註『モンスーン文書と日本』(八木書店、2006年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。