塩素消毒の起源

by 西 鋭夫 April 14th, 2021

水は腐る


2011年3月、東日本大震災が起こりました。地震と原発事故の余波により日本人の水に対する認識は大きく変わったのではないかと思います。スーパーやデパート、コンビニから水が消えました。ミネラルウォーターの買い占め合戦が始まりました。

災害が起きないと水の大切さは理解できない。水は、中長期的にではなく、今日、明日にでも、人間の生存と生活に不可欠です。いつ起きるかわからない自然災害に備えて、多くの人々が水を蓄えるようになった。

しかし、動いていない水は腐ります。ほとんどの人がこれを知らない。船に積む水は、昔からプロペラのようなもので動かしていました。循環させていないと水は腐るのです。


川の水が飲める国


川の水は当然のように止まっていません。常に循環しています。だから腐らない。川の水はまた、砂利などによって自然に浄化されています。ミネラルも豊富です。ゆえに、腐らないどころか栄養も豊富で、飲んでも病気になりません。

私は岡山の田舎に疎開していましたが、そこには美しい川が流れていました。私たちはそこで泳ぎ方を習い、疲れて喉が渇いたら川の水を飲みました。皆さん、とても元気でした。

河原が浄化作用を手伝っていました。しかし今は、河原をなくし、両側にコンクリートの壁を作った。これによって水はどんどんと汚くなった。


日露戦争と塩素


その汚い水を、飲水としてあるいは生活用水として用いるため、殺菌する必要が出てきました。殺菌に適していたのは塩素です。現在の日本の水道技術は世界でもトップレベルですが、消毒のためにいまだに塩素を使っています。


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塩素によって消毒するという発想は、日露戦争の時に遡ります。当時の日本軍は、塩素から毒ガスを作り出して、それを戦場で使う予定でした。しかし、日露戦争は一瞬で終わってしまった。

日本軍は、大国ロシアと戦うために、たくさんの塩素を蓄えておりましたが、ほとんど使われず、大量の塩素が残りました。そこで思いついたのが、水を殺菌するために塩素を使うという案でした。塩素が水を殺菌することは知られていましたが、それを大々的に飲水に使う発想はありませんでした。

1904年から5、6年かけて、日本で初の水道ができました。この水道網は、東京駅から、国会議事堂周辺までどんどんと広がっていきました。完璧な安全を求める日本人は、飲水の殺菌において、限りなく100%に近い状態を求め、塩素をたっぷり使っています。体内で蓄積されていく塩素量はごくごく微量でしょう。しかし、これが長年続くと、害を及ぼします。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年2月下旬号「水戦争」− 4




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。