格差大国アメリカ

by 西 鋭夫 February 8th, 2021

格差社会


資本主義には必ず影がつきまといます。それは貧困問題です。米国も例外ではありません。

2010年のある統計データによると、上位1%の裕福層が米国における42%の金融資産を持っています。上位10%の裕福層でみると、その金融資産に占める割合は90%となります。裕福層に富が一極集中しているわけです。米国内の経済格差は今後も拡大し続けるでしょう。

選挙戦を見ると、その格差がいかに尋常でないかがよく分かります。選挙戦では10億、20億というお金が動きます。演説が上手いか、下手かなどは関係ありません。まともな政策論争もほとんどありません。お金が選挙と政治を動かしている。上位10%の裕福層だけが政治に参加している状況です。


トランプ人気の秘密


トランプ氏が人気なのは、彼は誰のお金ももらっていないからです。彼には、支持母体となるような巨大な財閥がありません。自分一人の力で稼いだお金で政治活動を行っている。それが多くのアメリカ人の心を掴んでいます。

トランプ氏に対しては、たくさんの悪口が言われています。しかし彼は、お金の面では誰にも頼っていない。いわば、アメリカ・ドリームを自分で体現したような人物であるわけです。

一方、これまでの大統領たちは大金持ちでした。彼ら自身が裕福層である10%に入っていますから、その世界を潰すことはないわけです。トランプ氏はそれを壊そうとしている。アメリカの反乱が始まろうとしているように思います。


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アメリカン・ドリームの終焉?


アメリカの貧困問題は予想以上に深刻です。アメリカには建国以来のアメリカン・ドリームがありました。すなわち、貧しい家庭に生まれても、努力をして懸命に働けば、中流以上に上りつめ、豊かな生活ができる、という夢です。しかし、裕福層が牛耳る今のアメリカでそれを実現するのは容易でない。

アメリカン・ドリームは今や神話になりつつありますが、現状はというと一握りの成功例がその夢をつないでいる、という状況です。それは、移民の数を見てもわかる。様々な問題はありますが、アメリカは依然として移民が憧れる第一の国です。イギリスや日本には行きません。ほとんどがアメリカを目指すわけです。

事実、スタンフォードの周りのシリコンバレーには、世界中の天才たちが集まっています。インド人も中国人も日本人も、大学を中退した強者たちがしのぎを削って大金を稼いでいる。こんなことはアメリカでないと出来ない。米国にはまだ僅かですが、アメリカン・ドリームが生きていると思います。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年1月上旬号「アメリカの貧困」− 1




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。