中国包囲網の内実

by 西 鋭夫 January 20th, 2021

政治的ジェスチャー


軟弱外交との批判をかわす狙いがあってか、アメリカは先ごろ(2015年10月27日)、中国が埋め立てて作った人工島の領域内に、航行の自由を理由としてイージス駆逐艦を送りました。中国を牽制したわけです。11月18日にはフィリピンにてAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれましたが、その際、オバマ大統領はフィリピン海軍のフリゲート艦に搭乗し、地域の海洋安全保障と航行の自由を強調し、演説を行いました。

彼の演説は上手いし、フリゲート艦に搭乗する演出も悪くない。しかし、結局のところオバマ政権は中国に対して何も出来ない。すなわち、彼の言動は信ぴょう性を欠く、ハッタリだと言わざるを得ない。

中国は、オバマ大統領が何もしないことがわかっているので、米国からの欲求や脅しには見向きもしないでしょう。やりたい放題です。九段線にそって、中国は今後もさらに拡張的な政策を推し進めると思います。


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フィリピンの重要性


オバマ氏による政治的ジェスチャーは、米国の重要なパートナー国であるフィリピンやベトナム、タイ、マレーシアなどにとっても重要な意味を持ちます。

例えばフィリピンには以前、米軍基地がありましたが、同国は現在、この基地を再利用するだけでなく、米軍の応援を求めています。しかし米国は、その求めにも応じることはないでしょう。なぜなら沖縄ですでに間に合っているからです。米国の極東地域の要塞として、沖縄には最新鋭の装備を持った米海兵隊が配備されている他、緊急展開可能な戦闘機、艦艇などもすべて揃っています。

しかしながら、フィリピンはアメリカとともに太平洋戦争を戦った盟友であり、ダグラス・マッカーサーの第二の母国でもあります。ゆえに、もしフィリピンに手を出す国があるとすれば、米国は許さずに出撃するでしょう。フィリピンや日本は、もはやアメリカにおける極東地域の要塞の一部です。

アメリカから見ると、太平洋は自分たちの庭であり、池であると言えるでしょう。北海道からフィリピンまでの米軍基地は、米国にとってのいわば万里の長城です。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2015年12月上旬号「南シナ海の情勢」− 3




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。