21世紀のベトナム戦争

by 西 鋭夫 January 13th, 2021

九段線


南シナ海には石油や天然ガスをはじめとした豊富な資源が眠っています。またその海域には、小規模の島々からなる多数の群島があります。この地域、特に南沙諸島の領有権をめぐって、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが対立しています。

これは今に始まった話ではありません。中国はすでに、南シナ海の南沙諸島の一部を埋め立て、7つの人工島を建設しました。さらには、3,000メートル級の滑走路を持つ飛行場も建設しております。

海洋法条約では、領土である陸地から最大12海里(約22キロ)を領海とし、200海里(約370キロ)を排他的経済水域としています。ところが中国は「九段線」という概念を持ち出し、南シナ海のほぼ全域を囲み、領有権を主張しています。


ベトナムの意地


周辺国は中国による拡張主義的な行動に対して、大きな危機感を募らせています。地図を見ると分かりますが、九段線はフィリピンやベトナムの海岸線近くまで引かれています。

国際政治上ではほとんど注目されていませんが、中国が今、一番恐れているのは、おそらくベトナムです。ベトナムはかつてフランスの植民地であり、非常に長い間、苛められてきました。フランスによる植民地支配の後は、日本軍が支配するわけですが、大戦後はまたフランスが戻ってきます。ベトナム人の抵抗にあったフランスは、ベトナムと交戦状態に突入します。フランスはこの戦争に敗北しました。

その後、今度はアメリカがベトナムにやってきて、15年間、戦争が続きます。勝者はベトナムでした。世界中でアメリカを負かしたのはベトナムだけです。ベトナム戦争後、次に戦火を交えたのは中国でした。ベトナムは自分たちの国を守るために、とことん戦う国です。この時も人民軍から見事にベトナムを守り切りました。中国が三度ベトナムに圧力をかけようものなら、ベトナムは武力行使に打って出るでしょう。


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ベトナム上空から爆弾を投下する米軍機



アジア対中国


ベトナムが中国と戦う決意を示すと、フィリピンやマレーシアなどの周辺各国も加勢するでしょう。その様子を見たら、アメリカも出撃せざるを得ない。アメリカの重要なパートナー国であるタイも参戦するでしょう。

中国に睨みを利かす上でも、日本はアメリカの戦略上、極めて重要です。これは繰り返し指摘されてきたことですが、その重要性は今も全く変わらない。日本は、アメリカによる対中政策の最前線です。巨大な米軍基地を有する日本は、ベトナムへの支援を要請されるでしょうし、米軍機は日本からも飛び立つでしょう。

以上のような筋書きを中国が想定していないとは考えられない。ですから、ベトナムに対して本気で圧力をかけていくことは今のところないと思います。しかし将来的にどうなるかはまだわかりません。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2015年12月上旬号「南シナ海の情勢」− 1




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。