幻の「世界大学」(広島案)

by 岡崎匡史 December 19th, 2020

blog188.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

「世界恐慌」の煽りを受けて、頓挫してしまったキリスト教大学設立計画。しかし、この計画が日本敗戦によって再び動き出す。

敗戦日本に民主主義を育成し、キリスト教の信念を植え付けたい。キリスト教主義の大学を設立して日本の「精神的空白」を満たすことが、もっとも現実的な方法だと考えられた。

1946(昭和21)年12月、日本国際基督教大学財団の理事で宣教師のソブン・T・ブランボー(Thoburn T. Brumbaugh)ら一行が来日します。

世界大学


ブランボーは、日本のキリスト教信者や教育者、さらに政財界の重要な人物と接触する。

その中には戦後初の総理大臣・東久邇宮稔彦王(1887〜1990)もいた。東久邇宮は宗派にとらわれないキリスト教大学を設立することを希望し、ブランボーに日本は国際化教育の下地は出来てきており、新しく作られる大学は「世界大学」と名付けるべきと積極的に提案した。

1946(昭和21)年12月26日、ブランボーは昭和天皇と謁見する機会が与えられた。昭和天皇はキリスト教徒の献身なる努力と活動に感謝の言葉を述べられ、大学設立について「格別な励ましの言葉」を仰せになった。ブランボーは、キリスト教の大学を日本は欲しているのだと確証を得たのである。

2日後の28日、ブランボーはマッカーサー元帥と会談。マッカーサーは、大学の設立に5000万ドルの予算をつぎ込むべきであると熱弁を振るう。元帥は「キリスト教だけが自由を重要視し日本に民主主義をもたらすことを現実化できる。なぜなら人間の尊厳を自明とし、全知全能の神が全ての創造主であると信じているからである」と語り、宣教師のブランボーを魅了した。

募金活動


ブランボーは米国帰国後、『ニューヨーク・タイムズ』の取材に応じる。

彼は「日本でのキリスト教宣教師への扉は大きく開かれている」「原爆によって破壊された広島が大学建設の場所として提案されている」「マッカーサー元帥と昭和天皇は、キリスト教が日本人に多大な影響を与えることを切望している」と意欲を語った。

1947(昭和22)年1月16日、北アメリカ海外宣教会議はペンシルベニアで会合を開き、日本にキリスト教の大学を設立することは、「神から与えられた神意であり神聖なる機会」であると捉え、この活動こそが「イエスへの道であり、日本、アメリカそして世界を恐ろしい破壊と荒廃から救う」と決意表明をした。

全米キリスト教会など多くのキリスト教教会が賛同して、大学設立のために1500万ドルを集める募金活動が採択された。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・"Report on Trip to Japan," 29 January 1947, George D. Stoddard Miscellaneous Papers, Box 1-27, Hoover Institution Archives, Stanford University.
・ Iglehart, Charles W. 1964. International Christian University: An Adventure in Christian Education in Japan. Tokyo: International Christian University.
・"Bids Churches Tie Relief to Mission," The New York Times, 16 January 1947.

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。