書評の神髄

by 岡崎匡史 October 3rd, 2020

blog177.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

書評を依頼されることが、度々あります。
直近では、世界史学会(World History Association)の機関誌に論評を寄せました。

残念ながら、著作権の都合で、作品をブログに載せることができません。日本とエジプトの美術教育(書道・音楽・絵画)を比較しながら、世界の学校教育の潮流と系譜を結びつける作品でした。

1982年にアメリカで発足された「世界史学会」は、「グローバル・ヒストリー」の大御所のような学会です。グローバル化が進展するなかで、いかに世界史を論じるのか。学際的な視点を取り込みながら、国は違えど、世界で起きている相互関連を巨視的な視点から読み解くことができるのか。

グローバル・ヒストリーは、傍目からみると、地域史や各国史が複雑に絡み合い、それでいて文明論のような感じで「世界史」を論じているように映る。「世界史」と「グローバル・ヒストリー」の何が違うのという疑問に行き着くので、とっつきにくい分野でもあります。

書評とは褒めること

さて、書評を書くのは、やさしそうに見えて、難しい。簡単に誉めてしまうと迎合しているようだし、批判をすると「上から目線」のようにも思われてしまう。

適度な批判精神は不可欠なのですが、若い頃は批判をすることによって「自分が賢い人間だ」と勘違いしやすい。批判や論破をすることで、ひとときの高揚感に酔いしれてしまう。実際には、自らの作品を生み出すこともなく、創造的な営みをしない「ソフィスト」に過ぎないのに、、、

小林秀雄は「批評とは褒めること」だと名言を残しています。私も書評を書くときは、褒めることを心がけています。私たちは「否定的」な語彙力は豊富ですが、「肯定的」な語彙は不足しがちです。著者が思ってもいないような褒め方を磨くようにしています。

書評の効用

書評を書くのは、骨が折れる。本をじっくり読み込んで、書評を書き上げるには1ヶ月は要します。英語で書評を書くとなると、さらに大変です。私の英語力では、日本語で表現したい事の三分の一、頑張って半分を伝えるのがやっとです。

執筆のスピードも、遅くなります。「英語脳」と言われてもピンときません。母国語の日本語の方が、高度で緻密な思考が行えるのですから、日本語で思考回路を巡らせている。それを的確な英語で表現して、学術的な論理展開になるよう工夫しています。

1冊の本を読むことは大変ですが、数ページの書評なら10分もあれば読むことができます。1ヵ月分の労力を10分で消費できる。書評を読むことは、学習効果がとても高いのです。


ー岡崎 匡史

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。