ヒトラーの野心と国産車

by 西 鋭夫 August 26th, 2020

不正ソフトの発覚


ドイツを代表する自動車企業といえばフォルクスワーゲンです。世界的にも有名です。

同社のディーゼル・エンジンに不正ソフトが見つかりました。2015年、アメリカ環境保護局の指摘によるものです。このソフトは、試験走行時に排ガス規制に適用するようモードを切り替えることができます。つまり、排ガス規制から不正に逃れることができるのです。

フォルクスワーゲンのビンターコーン会長は「心の底から謝罪する」と述べ、辞任。不正ソフトが搭載されているディーゼル車は、全世界に1,100万台ほどあるらしく、同社に対する制裁金は日本円で約2兆円です。米国内では損害賠償を求める訴訟が起こっており、負担額はさらに増加することが予想されます。

世界中でも訴訟が起きます。一番怖い訴訟は「ワーゲンに乗っていたら健康を害された」「体が傷ついた」といった類のもの。もう一つは、同社の株主が憤激するケースで「俺は莫大な損害をしたから賠償しろ」です。

フォルクスワーゲンには気の毒ですが、同社はこれから地獄の底へと落ちていくでしょう。短く見積もっても、4年から5年は地獄から抜け出せないのではないか。


フォルクスワーゲン王国


私が最初に乗った車はフォルクスワーゲンでした。スポーツ型の「カルマンギア」という美しい自動車です。14年から15年、乗っていました。

アメリカでもフォルクスワーゲンは大人気でした。次々と新しいものが導入され、新しいタイプのワーゲンが出てきました。特に「ビートル」などは、コガネムシのようなスタイルは変えずに、機能や質を改善していて素晴らしい車だと思っていました。

広告も圧巻でした。大学の授業で広告に関するクラスをとると、フォルクスワーゲンの広告が必ず例として出されていました。もちろん、良い広告の例としてです。それほど、高い評価を得ていたわけです。

詐欺をするとは俄かには信じられない。私もアメリカも大ショックです。世界中が大騒ぎでしょう。


ヒトラーの狙い



フォルクスワーゲンの創業は、ナチスドイツと深い関係があります。同社は1937年に設立されましたが、当時のドイツではヒトラーが台頭し、独裁体制が築かれていました。

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第一次世界大戦の賠償で疲弊したドイツをいかに再建するか。ヒトラーが考えた方法は、強い重工業と国民の自尊心を同時に取り戻す秘策、つまり一般市民が乗れる国産車を作る、ということでした。

ヒトラーは、ポルシェで有名なドクター・ポルシェに対し、一般国民が乗れる、安くて頑丈で壊れない車の設計を命じます。これが「ビートル」という名のフォルクスワーゲンの始まりです。ドイツ語でフォルクスは「国民」、ワーゲンは「車」ですから、ビートルは「国民車」でした。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2015年10月上旬号「フォルクスワーゲン」− 1




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。