From: 岡崎 匡史
研究室より
歴史研究には、アーカイブス調査が欠かせません。
フーヴァー研究所には、膨大な日本関連の史料があります。
アーカイブス調査と聞くと、昔の史料を読んで、それを整理して、まとめているだけでしょ? 「研究」といっても、それほど難易度の高い学問だと思えないし、楽な仕事なのでは?
このように思われる方も多いことでしょう。
では実際、どんな手順で調査をしているのか。
先行研究
「よし、調べるぞ!」と意気込んで、アーカイブスに直行したら、必ず、失敗します。綿密な準備なしに、アーカイブスの史料を読みこなすことはできません。
既存の研究(先⾏研究)を徹底的に読み込み、まずは知識の基礎体⼒を作る必要があります。先⾏研究では、何が調査されており、どこまで研究が進んでいるのか。他の研究者の研究⽔準を知ることで、⾃分の⽴ち位置を冷酷に⾒定め、独創性を発揮する研究領域を見い出すことが求められます。
この作業を怠ると、たんなる猿真似、⼆番煎じ、三番煎じの研究となり、学術界では評価の対象にもなりません。
先行研究を一通り終えたら、研究構想を起案する。研究構想は「道しるべ」のようなものです。研究構想を作成できないと、ただ何となく調査するという態度になってしまい、いつまで経っても研究を終わらすことができない。研究を完成させるには、何を調査して、どれくらいの歳月を要するのか、常に把握してなければならない。研究の進捗を「自己管理」する能力が不可欠です。
研究と効率性
先行研究を消化し、研究構想を打ち立て、これでようやくアーカイブ研究への準備が整います。ここから本番です。楽しみと苦痛を伴う作業は数ヶ月続きます。
実際、1日に5時間、調査するだけで、もうくたくたになってしまいます。昔の史料ですから、ホコリもありますし、くしゃみが出て、体調が悪くなることもあります。
英語で書かれている文書もあれば、当然、日本語の史料もある。しかも、旧字で書かれているので、読み解くのにも時間がかかる。紙が劣化しているので、文字そのものが読みずらい。こんな毎日を過ごしていると、視力も落ちます。
最近では、インターネットで昔の史料を閲覧することができるようになってきました。いわゆる「デジタル・アーカイブス」です。しかし、デジタルの史料をみても、なかなか頭に入ってきません。研究をする上で、オリジナルの史料に触れるということは、意義深いことです。
ページをめくっていたり、紙の肌触りであったり、その日の天気であったりと、それほど関係のないようなことが、あとあと重要になってきます。もちろん、普通の社会の仕事で求められるのは「効率性」ですが、無駄なように思えることも、研究には大切なことです。
ー岡崎 匡史
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。