博士論文の心構え

by 岡崎匡史 February 15th, 2020

blog145.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

「博士論文を書き上げることができない。」
「自己嫌悪におちいり、鬱になりそうだ。」

このような相談を学生から受けることが、年に数回あります。

人それぞれ状況が違いますし、研究分野も多岐にわたりますから、一つの対策で簡単に解決できる問題ではありません。

ゴールがなかなか見えない博士論文の執筆には、人それぞれのドラマがあります。

論文と生活スタイル

学生たちの相談に乗っていると、大半の学生は、論文の執筆時間が細切れになっている。

1週間のうち、月曜日と木曜日しか論文を書いていない。あるいは、朝に書いたり、夜に書いたり、数日空けて、今度は昼の時間に書いたりする。このような時間の使い方では、1週間のうち投入している時間は同じかもしれませんが、時間の密度は全く異なります。ですから、1日のうち集中する時間を長くとり、執筆の間隔が空かないよう、生活スタイルを改善することをお勧めしています。

そして、1冊の本を紹介する。

MITのスティーブン・ヴァン・エヴェラ教授が執筆した『政治学のリサーチ・メソッド』(Guide to Methods for Students of Political Science)です。この本の一節に重要な警句があるからです。

ちなみに、このテキストは多くのアメリカの大学で必読文献に指定されているので、政治学を専攻している学生なら誰でも知っています。

知識の敵

少し長くなりますが、エヴァラ教授の助言を引用します。

学問に携わる者の配偶者や大切な人、両親、友人は、博士論文を書くことが何よりも重要であって大変困難であると十分に理解できないことが多い。何ヶ月にもわたる奇妙な行動、すなわちマンホールに落ちてしまうようなうわの空の状態、うつろなまなざし、鬱蒼とした図書館の書庫へとまるで永遠の世捨て人のように消えてしまうこと、アパートをおびただしいカードや紙の山ですさまじく散らかすこと、他人に聞こえてしまうのにぼそぼそと独り言をいうことなどに、かれらはいらいらしてくる。あなたは知の敵に対して強くなければならない。かれらの無知と非難を許してあげること。
 しかし、週末にはサボろうとか、海に行こうとか、飲みに行こうとか、普通の人間らしく行動してほしいという彼らの懇願に譲歩してはならない。博士論文を書いたことがない人は、プロジェクトに集中しつづけることがいかに大切であるかを決して理解できない。あなたにできる最善策は、あなたのキャリアは一定水準の博士論文を書くことにかかっており、一定水準の博士論文を書くことはエベレスト山に登るようなものであると、かれらに何度も説明することである。つまり、それは成しとげられるものではあるが、用意周到な準備とその仕事に集中的にとりくむことによってのみできることなのである。この方法がうまくいかない場合は、同じ苦しい立場を共有している博士論文を執筆中の友人との親交に慰めを得て、学位を取得するまえに離婚届が来ないよう願うことである。

大学院で一番大事なことは、博士論文を書くこと。博士論文を書いているときは、出家した僧侶と同じように、精神的に「貴族」でいなければならない。

たとえ、論文を一行も書くことができなくとも、机に座り続けること。一週間、一カ月と、何も書くことができなくても、めげないこと。必死に考え続けてさえいれば、それは思考が醸成されている期間だから心配いらない。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・スティーブン・ヴァン・エヴェラ『政治学のリサーチ・メソッド』(勁草書房、2009年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。