ナチスドイツと技術移転

by 岡崎匡史 December 14th, 2019

blog135.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

かつて、イギリスの作家ハーバート・ジョージ・ウェルズ(H.G. Wells・1866〜1946)は、『宇宙戦争』という小説を発表しました。火星人が地球に到来し、地球を侵略する物語です。

はたして、宇宙戦争は、SF小説のなかでの出来事なのか?

宇宙開発をめぐり、世界各国の政治的駆け引きが強まっています。2019年8月には、トランプ大統領は「宇宙軍」を発足させました。宇宙は、軍事的な技術と密接に関わっている。

ロケットとミサイル


大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、ロケットエンジンで推進します。そして、ミサイルを狙った軌道に乗せる技術が必要です。

ロケットとミサイルは、似たようなものと漠然なイメージがありますが、名前が異なるからには違いがあります。ロケットとミサイルの大きな相違の一つは、燃料のが異なることです。


ミサイル=個体燃料
ロケット=液体燃料

ミサイルは個体燃料なので、ミサイル発射の状態を常に維持することができる。有事の際に即座に対応できるし、長期保存が可能です。

その一方で、ロケットは液体燃料なので、燃料を注入するのに時間がかかり、長期保存に不適です。しかし、燃焼がよいので強い推進力という利点がある。

人材と技術


ロケット弾が本格的に使われたのは、第二次世界大戦です。

第二次世界大戦中、ナチスドイツのヴェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun・1912〜1977)によってV2ロケットが開発された。V2ロケット弾は、物凄い音を立てて飛んできて、勇敢なロンドン市民さえも恐怖の坩堝に陥れました。

この技術が、宇宙開発の基礎となるロケットの原型になる。

蛇足ですが、西洋の人名に「フォン」(von)という言葉が使われることがあります。ミドルネームと誤解されて省略されがちですが、「フォン」(von)は貴族階級出身の証のようなものです。名前を呼びかけるとき、「フォン」(von)を使っていれば、礼を失することはありません。

たとえば、指揮者で世界的に有名であった「カラヤン」の姓名は、ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan・1908〜1989)。「フォン」(von)が使われていまので、貴族階級であるとすぐに判別できます。

話を戻すと、ナチスドイツは敗北し解体されましたが、ロケット開発に関わっていた多くの技術者は生き延びた。

V2ロケットを開発したフォン・ブラウンは、アメリカに渡り、人口衛星の開発に従事した。

アメリカだけでなく、ソ連、フランス、イギリスに引き取られる形でロケット開発に取り組んだ技術者もいました。人材とともに、ドイツのミサイル技術は世界に散らばっていったのです。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・鈴木一人『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2016年)
・小塚荘一郎、佐藤雅彦編『宇宙ビジネスのための宇宙法入門』(有斐閣、2015年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。