From: 岡崎 匡史
研究室より
論文を書くのは難しい?
仕事の報告書や企画書と比べて、論文は何が違うの?
卒業論文と博士論文の違いは、どこにあるのか?
修士論文や博士論文の執筆に困っている学生からも、このような質問をよく受けます。
博士なら、なんでも知っていると思うのは大きな誤解です。博士論文は、特定の分野を深く深く研究すること。
論文作法
いままで優秀な人として認められ、与えられた課題を悠々とこなしてきた人ほど、独自の研究が求められる博士論文で狼狽します。
与えられた課題ではなく、自らの「主体性」によって研究テーマを選び、博士論文を構築していかなければならないからです。
『薔薇の名前』で世界的に有名な記号学者ウンベルト・エーコの『論文作法』(面立書房・1991年)は、論文を書くうえで必読書です。
研究テーマを選ぶ
まず、研究テーマを選ぶことが大きな課題です。視野を広げてどのようなアプローチをすればよいのか熟慮しなければなりません。
『想像の共同体』で知られる文化人類学者のベネディクト・アンダーソンは、理想的な研究方法の見つけ方を次のように説いています。
「面白い研究を始める理想的な方法は、少なくとも私の考えでは、自分が答えを問題ないし疑問から出発することだ。この場合、自分が何を読むかをまず考えなければならない。例えば、どのような種類の知的道具(言説分析、ナショナリズム理論、サーベイ等)が助けとなるかを検討し、読むものを決めていく。自分だけで読書の対象を決めるのではなく、友人たち、必ずしも自分のディシプリンや地域研究プログラムに限定されない友人たちの助けも求めるべきだ。自分の知的裾野をできるだけ広げる努力が肝心なのだ。しばしば幸運も必要とされる。そして最後に、自分のいろいろな考えが徐々にまとまって形を成し、発展していくための時間が必要だ。」(ベネディクト・アンダーソン『ヤシガラ椀の外へ』エヌティティ出版、2009年)
研究テーマの限界
博士論文を書くにあたって、最初の困難は研究テーマを選ぶことです。調べれば、調べるほど研究がすでに行われているので、自分が入り込む隙があるのかと自信を失います。
大学院に入学した当時から論文のテーマが決まっている場合もありますが、数年間は知識の泉を泳ぎ、それから研究者としての命運を左右する課題を選べばよいでしょう。
自分の実力と相談しつつ、無理なテーマを選ばないようにする。たとえば、韓国語を読み書きできないのに、日本と韓国を比較するような研究をしてはいけません。必ず、自分の知っている言語で収まる研究にすべきです。
壮大な研究テーマを選ぶことは挑戦的。といっても、研究テーマに自分が潰されてしまう場合もあるので注意する。
研究テーマさえ決まれば、後は取り組むのみ。
ー岡崎 匡史
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。