国旗掲揚の是非
日本では「国」「領土」「国旗」「国歌」「誇り」のような、日本を象徴する観念は消滅しつつあるのだろう。国民の命を象徴する観念を失うことは、「平和的」というのではない。国境は私たちの皮膚である。
世界中から最も多くの難民や移民を受け入れている米国では、日本の寂しい現状を理解できない。2000年4月、ロード・アイランド州ニューポート市で公立高校の教頭と体育部長と話をする機会があった。2人とも元軍人で、体育部長は米国海軍大学卒。この高校はスポーツも強く、卒業生は名門大学に進学したり、陸軍・空軍・海軍士官学校(超難関)に入学する。生徒たちはキビキビと動き、表情も明るかった。
日の丸の掲揚と国歌斉唱の話になった。私が、日本の高校で毎春行われる卒業式と入学式で、先生、生徒、父母は起立しないし、また嫌悪感をあらわにし、騒音を立てながら会場から退場すると言ったら、2人共まさかと信じない。「悪い冗談」と受け止めたようだ。
「もし、この高校で国旗掲揚の時、生徒が1人でも起立しなかったら、ボク(教頭)がそいつを後に残し、裏庭で個人的に話をして彼の意識改革に努める。明朝までには彼の態度は完全に直っていて、国旗に対し心から敬意と忠誠を尽くすであろう」とニヤリ笑った。体育部長も相槌を打っていた。私が「その生徒さん、目の辺りに青あざができているかもしれませんね」と冗談を挟むと、「そこまでしないでも良いが」と2人ともワッと大笑い。
米国民から見た在日米軍
教頭は在日米軍基地に赴任したことがあり、日本滞在はとても楽しかったと言い、ニコニコしながら「日本も自分で国を守った方がいいよ」と私を挑発した。彼の意見は、米国民の心情を正確に反映している。
2002年3月、アメリカの大手調査社ギャラップ社が外務省に依託され、アメリカで世論調査を行った。「日本は防衛力を増強すべきだ」と答えた米国民は、52%。「日米安全保障条約が米国の国家安全にとって重要」と答えたのは、88%。米国民が在日米軍基地はアメリカにとって絶対必要だと言っている。
国防軍の是非
「日本の防衛力増強」について、米国民の心理には複雑な思いが内蔵されている。先日、カリフォルニアの大手新聞社の国際ニュース編集長との昼食が怒鳴り合いになってしまったのは、その内蔵されていた思いが表面化したからだ。
和やかに始まった食事中に、私が「日本は自衛隊を正式の国防軍にして、在日米軍の手を借りないで自己防衛をするべきである」と主張したら、彼は「米軍に日本から出ろと言ってるのか」と反論してきた。
「そうだ」と答えたら、「日本は、再軍備をしてどうするつもりなのだ」と、また侵略戦争をするのかという非難をあからさまにした質問を投げかけてきた。
私は「再軍備」という言葉が好きではない。この漢字の中に「日本帝国の無謀な侵略戦争」という暗黙の過去が織り込まれているからだ。だから、米国民も日本国民も「再軍備」と聞いただけで、戦争になると思い「反対」と言う。
西鋭夫著『日米魂力戦』
第4章「国の意識」の違い -39
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。