缶詰工場の暮らし

by 西 鋭夫 January 18th, 2018

食事


この地の果てアラスカでの楽しみは、食べ物。料理の豊富さと、量の多さ、1日に4回の食事。

共同食堂にはプロの料理人(男)も3人おり、彼らの手伝いも男女10人ほどいた。別にパン焼きが1人いた。食堂の周りはいつも焼き立てのパンの香りがしており、果物は自由に取れるように大きな箱に山積みされていた。魚の中で暮らしていたので、牛肉、鶏肉、豚肉の料理が多く、おいしかった。

お手伝いの人に「箸がありますか」と尋ねてみたが、ニタッと「映画で見たことがある」と言い、「日本人は本当に箸で食べるのかな」という顔をしていた。当時(1965年)、日本語の「sushi」など誰も知らない。「日本人は魚を生で食べる」というぐらいの知識であった。


黒澤映画の思い出


週2回、小さな劇場で映画が上演された。日本映画は1本もない。

ワシントン大学では、大学生の間で黒澤明が映画の神様だと思われていた。

目に見える日本人の英雄がいなかったので、三船敏郎と「黒澤映画」に感動しているアメリカ人の友達を見ながら、私は日本人として誇りを感じた。

あの誇りは新鮮な快感であった。


鮭缶造り


工場では「特別な時」がない限り、週2回の映画は見逃さなかった。「特別な時」とは船が沈むほど鮭を積んで、2、30隻同時に工場の浅橋に着岸した時だ。

この時は工場が夜を徹して操業する。アメリカに来て勉強で徹夜したことは絶えずあったが、肉体労働で徹夜したことはなかった。数万から数十万匹の鮭を満載している船が次から次へと着岸するので、工場内の全ての機械は猛烈な勢いで動き、騒音も凄い。

会話も挨拶も全て怒鳴り声である。鮭は新鮮なうちに缶詰にしなければ味が急速に落ちる。


鮭のランキング



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鮭にもランク付けがある。

紅鮭(肉が真紅)が缶詰で1番値が高い。

銀鮭(肉は桃色)が2番目。

ピンク鮭(肉は桃色)が3番目。銀より肉が柔らかい感じ。

4番目は、チャム・サーモン。ドッグ・サーモンとも言われる。

肉は白っぽい。ドッグと言われるのは、他の鮭がもっている紅・ピンク色がないからだ。「ポチの食物用」というところか。だが、味は値段ほども違わない。

「イクラ造り」の世界では、この順番が逆転する。

チャム・サーモンが最高級の貴重品である。産卵間近のチャムの卵は他の鮭の2倍もある。チャムの卵から造ったイクラが最もおいしい。



西鋭夫著『日米魂力戦』

第3章「アラスカ半島でイクラ造り」−5



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。