新しい「大学の選び方」?
4月上旬、コロンビア、ワシントン、ハワイ大学の3校から入学許可が届いた。どの大学にしてよいのか分からない。
私がアルバイトをしていた大阪港の「海員センター」の所長の息子さんがフルブライト奨学金で留学された秀才で、コロンビア大学での一年間の留学から帰国していた。相談にのっていただいた時の会話は憶えている。
秀才「コロンビア大学へ行ったけど、ニューヨークは寒い。大阪の冬と同じと思うたらあかんで。風が冷たい。涙が出る。その涙が凍るんや」
ボク「そらあ、寒すぎますわ」(コロンビア大学、止め)
秀才「ハワイ大学は過小評価されているけど、ええ大学や。ところで、あんたの顔、遊ぶという顔やんか。お前、ハワイへ行ったら、落第やな」(行きたかったハワイ大学、止め)
ボク「ワシントン大学はどうですか」
秀才「フルブライトのオリエンテーションがあった場所や(当時フルブライト生は横浜から貨物船でシアトルへ直行)。ええとこやでぇー。広いキャンパスは最高に綺麗や。女の子もみんな綺麗やった。みんなニコニコと笑いかけてくれるがなァ」
ボク「そうですかあ」(ワシントン大学に決定)
宿題の量
秀才「あんた、英語はできるんかいな」
ボク「ヘミングウェイは読めます」
秀才「辞書なしでか」
ボク「辞書は使います」
秀才「辞書なんか引いてる暇ないで。パーッと読まれへんかったら、落第や。お前、英文科とかなんとか言うてたな。なんで辞書なんか引いとんねん」
ボク「知らない単語もあります」(エヘヘと笑って誤魔化そうと思っていたが、彼の表情がこわばってきた)
語学力=単語力
秀才「辞書丸暗記して行き。丸暗記。日本語と同じで漢字知らんかったら、日本語でけへんやろ。英単語、知らんかったら、英語でけへんわ。考えても、意味なんぞ分かるかいな。分かってんのかいな!」
ボク「英会話も練習した方がエエのとちゃいますか」
秀才「アホウ。英語のできん日本人はすぐ英会話とか言いよる。単語も知らんで、何の話ができるねん」
ボク「ハウ・アー・ユー(お元気ですか)とか?」
秀才「お前、行く前からあかん。英会話なぞ、アメリカに三ヵ月いたらできる。その後、どないする。言うといたるけど、最初に気がつくのは単語力のなさや。語学力は単語力。辞書丸暗記する気がなかったら、行かん方がええでェ」
楽しみにしていた留学が重くのしかかって来た。私の辞書は油紙のような薄い紙に印刷された「豆単」で、表紙は茶色のなめし革。辞書をパラパラと捲り、こんなもの丸暗記できるわけがないと思いつつ、「A」のべージだけでもやってみようかと丸暗記作業を始めた。
西鋭夫著『日米魂力戦』
第1章「遊学1964年」-4
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。