国府軍投入オプション
朝鮮半島で勝利をおさめたいとするマッカーサーの熱意と、そのために支払わなければならない厖大な犠牲は、トルーマンをより一層慎重にした。マッカーサーのたびたびの声明は、トルーマン大統領を優柔不断であると呼ぶに等しいものであった。
4月5日、ジョセフ・W・マーティン下院議員(共和党)は、アメリカ議会で「マッカーサー元帥は、アジアにおいて第二戦線を展開するため、国府軍の使用を望んでいる」と言った。
マッカーサーの言う「国府軍」とは、蒋介石・台湾の軍隊で、「第二戦線」とは、この国府軍が中国本土に攻撃をかけるということだ。
これは、朝鮮戦争の全面的な拡大で、第三次世界大戦になる可能性は非常に高い。トルーマンは、この拡大だけは絶対に避けなければならないし、避けると決意していた。
これが、トルーマン大統領とマッカーサーの最後の闘いの場となる。
ヨーロッパ第一主義
マーティン議員は、マッカーサーからの手紙(3月20日付)を引用していたのだ。彼の手紙には、次のような台詞もある。
「我々は、ヨーロッパの戦争をアジアで、武器を持って闘っているが、ヨーロッパの外交官たちは依然意味のない言葉だけで闘っている。もし我々がアジアにおいて共産主義との戦いに敗れるならば、ヨーロッパの崩壊は避けられない。アジアで勝てばヨーロッパは戦争を避けることができ、かつ自由を保持することも可能となるであろう」
マッカーサーは、アメリカ政府首脳部が「ヨーロッパ第一主義」であるため、このアジアでの戦争が、アメリカの国家安全にとっていかに重要であるか分かっていない、と非難しているのだ。
国府軍投入オプション、却下
翌日、4月6日、大統領秘書は、記者会見で、トルーマンはこれまでの政策を変更させる気は全く持っておられない、と発言した。即ち、「国府軍は使わない」。
しかし、民主党のトルーマン大統領が、アメリカの英雄マッカーサー(共和党)に戦場での自由を与えないため、朝鮮戦争が長引き、勝利が得られないのだという声が議会の内で急速に高まってきていた。
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。