シリアと生物化学兵器

by 岡崎匡史 April 15th, 2017

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From:岡崎 匡史
研究室より

トランプ政権は、4月7日、シリアの軍事施設をミサイル攻撃。
アサド政権を背後から支えているロシアのプーチンの動向に世界の注目が集まっている。

なぜ、トランプはシリアを攻撃したのでしょうか?

それは、シリアのアサド政権が猛毒の化学兵器を使用した、と断定したからです。

実際のところ、内戦状態のシリアで化学兵器を使用したのがアサド政権なのか分かりません。反政府勢力、それともイスラム国が使用したとも考えられます。自作自演というシナリオも捨てきれません。

少なくともトランプは、「化学兵器の使用と拡散を防ぐことは、アメリカの安全保障上の重要な利益だ」と先制攻撃を正当化しております。

フーヴァーレポートでは「生物化学兵器とテロ」(2017年2月号)と題して、テロに揺れる世界をとりあげました。

日本も生物化学兵器と無縁ではありません。オウム真理教による「地下鉄サリン事件」の記憶は未だに癒えません。


諸刃の剣

生物化学兵器の使用にはメリットとデメリットがあります。
これを知ることで、独裁者やテロ集団の思考回路をたどることができます。
相手が何を考え、恐れていることは何か。これを知ることは、世界を見る眼を養います。

あなたが、一国の独裁者やテロリストになった気分で考えてみましょう。

なぜ、あなたは生物化学兵器を使うのですか?

それには、大きなメリットがあるからです、、、

(1)敵に対して、恐怖感を植え付けることができる。
(2)メディアの注意を引いてパニックを拡大させることができる。
(3)生物化学兵器は、核兵器に比べて容易かつ安価に入手できる。
(4)化学兵器(サリン、VXガスなど)は生物兵器(炭疽菌、ボツリヌス菌など)より開発が容易で、効果的に散布すれば多数の死傷者をだせる。
(5)ヒステリーに近い大きな不安を人々に呼び起こすことができる。


しかし、メリットがあればデメリットもあります、、、

(1)生物化学兵器に頼らず、安く簡単に入手できる武器を使う。そのほうが、経済的だし効率がよい。
(2)無差別攻撃になる恐れがある。自分を危険にさらしてしまうし、違法とされている兵器を使うことに躊躇してしまう。
(3)イメージが悪化する。そのため、支持者や潜在的支持者を失い孤立してしまう。
(4)攻撃を受けた国や市民は、報復心に燃える。容赦のない反撃をうけるので逆効果になる。

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さあ、あなたはどちらの選択をしますか?

生物化学兵器の使用は、敵に恐怖心を与えることができます。でも、報復も招きかねないのです。国際社会でのイメージは確実に悪化します。国際世論も黙ってません。黙認する場合もあれば、許してくれない状況もあります。

そう、今回はトランプが許してくれなかったのです。

テロの世界

生物化学兵器を使うと、後が怖い。

だったら、安価で容易に入手でき、最小限度の専門知識と訓練しか必要としない通常兵器を使用する、、、こう落ち着きませんか?

しかし、インターネットの普及、9.11米国同時多発テロ、イスラムの自爆テロによって戦争の形態は大きく変化してきました。

ヨーロッパでは、トラックに乗って暴走することが流行ってます。一番簡単なテロ攻撃です。攻撃をする際、犯行前に捕まるおそれも少ない。

世界は混迷を極めております。
テロを完全に防ぐことは不可能です。

いつ、どこでテロが起こるか予想はできません。

わたしもあなたも、実は、薄氷を踏むような毎日を過ごしているのです。

ー岡崎 匡史

PS.

以下の文献を参考にしました。

エドワード・M・スピアーズ『化学・生物兵器の歴史』(東洋書林、2012年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。