From:岡崎 匡史
研究室より
2017年1月、不動産王のドナルド・トランプが大統領に就任。
トランプ政権を支える閣僚に誰がなるのか注目が集まりました。
スタンフォード大学フーヴァー研究所からは、2名の現役教授たちがトランプ政権の参画。
一人目が、ジェームズ・マティス(James Mattis)。国防長官に就任。
二人目が、ハーバート・マクマスター(Herbert McMaster)。国家安全保障問題担当補佐官。
スタンフォード大学は、リベラルな気質で民主党を支持する傾向があります。その一方で、フーヴァー研究所は共和党とのパイプが強い。共和党の大統領が誕生するたびに、多くのスタッフがアメリカ政治に関与してきました。
フーヴァー研究所は、スタンフォード大学の卒業生ハーバート・フーヴァー(第31代米国大統領)が1919年に設立したシンクタンクです。
正式名は「フーヴァー戦争・革命・平和研究所」(Hoover Institution on War, Revolution and Peace)。フーヴァー大統領が、第一次世界大戦の戦禍を憂い、戦争・革命・平和に関する文献収集と学術研究を行うために設立しました。
マティス論文の意義
さて、今回は、国防長官に就いたジェームズ・マティスの論文を紹介します。
論文のタイトルは「新アメリカ大戦略」(A New American Grand Strategy)です。2015年2月にフーヴァー研究所の論文集に発表されました。今から2年前の論考です。
なぜ、2年前の論文をいまさら紹介するのか?
それは、マティスの世界認識と外交戦略が明確に書かれているからです。日本ではマティス将軍を「狂犬」(Mad Dog)と呼び、「狂犬マティス」が一人歩きしているように思えます。
マティスは、オバマ政権の孤立主義を批判し、防衛戦略を刷新する必要がある。 さらに、中東情勢では核開発をしているイランを封じ込めなければならない、と主張してます。
では、マティスはアジア情勢にどのような言及をしているのでしょうか?
南シナ海では中国に対するカウンターバランスをとり、地域的安定と繁栄を保つ
カウンターバランスとは、一言でいえば天秤のことです。天秤に乗っている中国が重いので、バランスがとれずに偏っている。解決するには、もう片方の天秤の皿を重くしなければならない。
天秤の皿に乗るのは、中国以外の周辺国となるわけです。周辺国とは、もちろん日本をはじめとしたアジア各国です。
力(パワー)のバランスをとって、紛争状態のない「平和」を維持することになります。
マティスとしては、アメリカが中国との直接的な武力衝突は避けたい。その代わり、周辺国の力を利用して中国に対抗したいのです。だから、アメリカは日本との同盟を強化したい、絆を深めたいはずです。
マティス論文から導きだせることは、、、
(1)米中戦争の可能性は低い
(2)日米同盟の強化
(3)中国以外のアジア関係諸国との関係強化
という3点でしょう。
マティスが政権入りしてから、まだ数ヶ月。はたして、アメリカの外交政策はマティス論文に書かれているように進むのでしょうか。それとも、新たな戦略が練られ、異なる方向に進むのでしょうか。
一寸先は闇という過酷な世界で、アメリカのアジア外交に目が離せません。
ー岡崎 匡史
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。