『民主主義のはなし』
民間情報教育局(CIE)は、引き揚げ者の「共産主義気触れを取り除くため」、『民主主義』の第11章に重点を置いて抜粋し、『民主主義のはなし』として出版した。
日本共産党からの『民主主義』罵倒が終わらないうちに、共産主義の宿敵であるカトリック教徒たちからも『民主主義』へ激しい攻撃が行なわれた。
日本人カトリック教徒たちと外国人宣教師たちは、『民主主義』の配布を中止させようとした。The Missionary Bulletin(宣教師の会報)は、CIE付きのカトリック顧問、ジョン・オードノバンに『民主主義』の再検討を申し入れた。
カトリック教徒の反対
オードノバン自身もこの教科書に強い不満を持っていたので、この時とばかりに、ニュージェント宛にメモを送り、カトリック教徒の反対意見を羅列した。
「この教科書の最も重要な章である第11章には、最も崇高な存在、神、が全人類の尊厳と権利の源泉である、という文章がありません」「神こそ全ての尊厳の源であります」
「大統領は憲法を守るため、聖書に『神よ、私を救いたまえ』と宣言を行ないます」
「キリスト教は、民主主義なしで生きてゆけるけれども、民主主義はキリスト教なしで、生き残れるかどうか疑わしいと思います」
「共産主義をめぐる議論には失望しております」「共産党による〝神の否定〟とか、〝人間の価値、尊厳の否定〟については何も書かれておりません」「日本を共産主義から救う闘いにおいて、『民主主義』は少しも役に立たないと思っております」
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ニュージェントはマッカーサーに、「日本のカトリック教徒たちは『民主主義』を非宗教的だと非難しております」と報告し、「カトリック教徒たちは、問題の教科書『民主主義』に示されている民主主義の解釈のみならず、連合国軍最高司令官(マッカーサー)が占領初期から導入された民主主義の概念にも反対を唱えております」とも言った。
ベルは「共産主義者は、共産主義のことを良く言わないからといって我々を嫌い、カトリックはカトリックで、我々が共産主義を十分批判しないからと言って嫌う。両方を喜ばすことは不可能である」と激怒しながら同僚のルーミスに嘆いた。
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。