ローマ字化の幕切れ

by 西 鋭夫 August 12th, 2016

 ローマ字化賛成派


終戦前、ホールが「カタカナ改革案」を提出したヒルドリングは、1946年4月、国務次官になり、占領地域担当に任命された。

そして、教育使節団の「報告書」を読んで、感動した。ヒルドリングは、ホールのカタカナ改革を「現実的でない」として拒絶していたのだが、その意見を撤回し、「ローマ字化」促進者に変身する。

国務省内のローマ字化大賛成派の二人、ヒルドリングとベントンは、政策文書「日本の国字改革と国語問題」を作成して、1946年11月、SWNCC(国務・陸軍・海軍三省調整委員会)の審議に付託した。

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審議


SWNCCは、占領日本に対するアメリカ政府の正式の政策立案機関である。

SWNCCで討議中に、ヒルドリングは東京のアチソン政治顧問宛に手紙を書き、マッカーサーの支持を取り付けるように頼み込んだ。

ヒルドリング国務次官が、わざわざ同僚のアチソンに手紙を書いたのは、陸軍省がSWNCCの会議で国務省の案を進めれば、マッカーサー元帥の立場が苦しくなり、彼の人気が完全に悪くなってしまうと主張したからだ。

ヒルドリングは、「民主主義体制は、適切な情報を与えられた選挙民があってこそ機能するのだが、そうした選挙民を育てるのに妨げとなっているのが日本語の表記方法である」とアチソンに説明している。


ローマ字化政策・撤回


アチソンはマッカーサーに相談した。

「これは、日本人自身にまかせるべき問題だ、というのがマッカーサー元帥の考え方であり、CIEの考え方でもある。マッカーサー元帥は、この問題をこれ以上騒ぎ立てるのは賢明でない、と信じている」

とヒルドリングに返事を書き送った。

また、アチソンは個人的見解を書き加えている。

「私は日本語ができないが、数人の専門家に聞いたところによると、ローマ字化は国語問題の末端に触れているに過ぎない。また、日本の生徒たちは初等・中等学校でアメリカの生徒たちが英語を勉強するのと同じ程度しか、国語の勉強に時間を割いていないし、国語の勉強で無駄だというのは、中国と日本の古典の学習にある」

これで、国務省は、日本語ローマ字化の政策文書をSWNCCから撤回した。


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。