デモクラシー、バンザイ!

by 西 鋭夫 May 4th, 2016

飢餓の中の民主主義


食べ物のことは良く覚えている。

一椀の芋粥がご馳走だった。白米だけの御飯は食べるには余りにも貴重で、米より麦の方が多いのが当たり前であった。夏になると、麦御飯は食べるには怖いような臭いがした。

廃墟と化した都市で、唯一の復興の兆しは、あくどい闇市の繁盛ぶりだけであり、国民は飢えていた。

マッカーサーは、日本国民に「日本の悲惨な現状は自業自得である」と言った。

日本帝国政府は恐れ戦きながら、マッカーサーの命令に従っていることを表明するかのように、民主主義だけが唯一の生きる道だと強調し、日本国民を驚かせた。

飢えた国民は、「民主主義」と「無政府主義」は同じであると日本政府から教育されていたからである。

GHQは、日本政府高官の発言を分析し、民主主義をどれほど理解しているのかを判断するのに使った。日本側はマッカーサーのご機嫌とりが容易でないことを思い知る。

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国家崩壊の断末魔



マッカーサーは日本政府の声明に悉く文句を付けた。日本政府は彼の説教を鵜呑みにし、さらに多くの民主的な言葉を付け加える。「デモクラシー」を過激化させる方程式が動き始めた。

しかし、「デモクラシー、バンザイ!」は、日本の指導者たちの耳には国家崩壊への断末魔の叫びに聞こえた。

天皇大権の運命はすでに瀕死の状態であり、政府が民主主義の白昼夢に耽っている余裕はなくなっていた。悪夢は新憲法で現実のものとなる。神州不滅であるはずの大帝国が降伏したことで、国民の間には深い政府不信の念が生まれた。

また、独断的であった文部省が混乱していることで、学生たちは自分たちの「権利」を声高く要求し始めた。

「皇国の英雄」「聖戦のための犠牲」という考えは、溶けるかのように、国民の日常生活から消え去った。


「軍神」殺し


GHQの命令で、「軍神」の銅像は次々に撤去される。

日本政府は「デモクラシー」とつぶやきながらも、茫然としていた。

だが、マッカーサーの命令には従おうと、文部省は、指令を雪崩のように教師や学生に浴びせた。

恰も、マッカーサー元帥に評価していただくかのように......。

紙不足の最中に起きた「紙によるデモクラシー」は、学生や教師たちをより一層混乱させた。



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。