飢餓

by 西 鋭夫 June 6th, 2015

物々交換


日本人は生きるために食物を探し漁った。

完璧なまでに破壊された都市での生活は特に悲惨だった。米を持っている農民たちは紙幣を信用しない。

都市の住民たちは絹の着物や金銀、宝石を持ち、食糧を手に入れるために超満員の汽車に乗って田舎へ行った。

「買い出し」である。

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私の両親も古びたリュックサックを背負い、農家へ足を運んでいた。私も時々連れて行ってもらった。母は高価な着物と、薩摩芋とか南瓜(かぼちゃ)、ジャガ芋を交換していた。

当時、私が食べていたサツマイモは、今スーパーで売っているようなドカッと大きなものでなく、親指ぐらいの細いものだった。大きくなるまで待てなかったのだ。

民主主義より食えるもの


政治顧問事務室に勤める日本人調査員(スパイ)が、1945年12月にそのような列車に乗り込み、次のような報告を提出した。

「東京・上野駅は想像を絶した生き地獄である。秩序は完全に崩壊している」

「誰も自分のことだけを考えている。汽車を待っている大勢の乗客たちは、改札口が開けられるや、窓から汽車に我先と乗り込む。あくどい闇商人たちは列車で 往復し、闇市で高い儲けのある米やリンゴを東京へ運んでいる。列車内で交わされる会話の中で、政党、婦人参政権、次期選挙といった政治の話題は全く出ない」

「農民たちは都市から買い出しに来た人たちに物凄い値段を吹っ掛け、大儲けをしている。そしてこれは当然だとうそぶいている」

都市に残っているものといえば、B29が落とした焼夷弾の残骸だけだ。

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。